大分医療方言集(豊肥・県南中心)・みえ記念病院版

             Ver.1.4 (平成27年4月23日更新)

当ページの大分医療方言集がOAB大分朝日放送の『JOKER DX』で豊後遺産(No.52)に認定されました!詳細はブログ2015年5月7日2015年6月1日をご覧ください。

©OAB大分朝日放送
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江戸時代の元禄7年(1694年)の俳諧集 其便(そのたより)に、『聞き分けられぬ豊後もの云い』という句があります。現在でも、大分県外から三重町に診療に来た医師が、患者さんから「先生、ユーロを見ちょくれ!」と言われて、「ヨーロッパの通貨がどうかしましたか?」と聞き返したという笑い話もあります(※ユーロとは豊肥地区の医療方言で下腿の後ろ側、よく足がつりやすい部位です)。方言がわかりにくいのは昔も今も変わらないかもしれませんが、九州で古代の都言葉が残っていることに本居宣長が感銘を受けたように、方言は貴重な財産だと思います。

 

三重町は、豊後大野市(旧 大野郡)の政治的な中心であると同時に、西は熊本県に通じる奥豊後の竹田市、東は海部(あまべ)の臼杵市、北は大分市、南は宮崎県に通じる佐伯市宇目町から往来がある交通の要所です。豊の国(大分県)は、鎌倉時代から四百年の大友氏の治世を経て、江戸時代に三重町は臼杵藩領となりましたが、大野川の水上交通などにより、岡藩(竹田)や熊本藩など様々な地域との交流がありました。当院に来られる患者さんやご家族からは旧大野郡や竹田を中心とする豊肥地区や、臼杵・佐伯の県南地区の方言が主に聞かれます。

 

大分県の医療方言に関する文献は、既に大分県立看護大学の大分保健医療方言研究会が約1900語を収録した『大分保健医療方言集(日高貢一郎編 2001年)』がありますが、このホームページでは、当院の日常診療でよく聞かれる医療に関する方言を独自に集めて註釈をつけました。これから実地研修をされる医学生、研修医、新人の医療者はもちろん、大分出身の患者さんを担当されている県外の医療関係者のご参考になれば幸いです。なお下記のリストに記載されていない、豊肥・県南地区の医療方言をご存知の方がおられましたら、このホームページの『お問い合わせ(メール)』や御手紙などで教えて頂ければ大変有難いです。何卒宜しくお願い申し上げます。      

 

(※)図中の「イチノウデ」「ニノウデ」について、現在の日本語ではニノウデは上腕を意味しますが、400年前に九州のポルトガル宣教師がまとめた「日葡辞書」にはニノウデ=肘から手首までの腕、イチノウデ=肩から肘までの腕、とあり元々は現在と逆の場所を指していたと推定されています。現在の大分でもニノウデ=上腕を意味することがほとんどです。

 大分医療方言集  みえ記念病院版 Ver.1.4 


(更新履歴)

Ver.1.4(2015年4月23日)名詞編「イチノウデ・ニノウデ」の説明を補足

Ver.1.3 (2014年10月4日)名詞編に「ヒケツ:便秘(古語)」を追加

Ver.1.21 (2014年9月29日)補遺に『豊後方言を描いた戦前の絵葉書』を追加

Ver.1.2 (2014年9月20日)名詞編に「ヒザウラ」を追加

Ver.1.1 (2014年8月18日)名詞編に「ヤシツラグイ」「ウシロアタマ」を追加

Ver.1.0 (2014年7月21日)  初版作成

 

◆名詞編◆

 

〇体:カダラ

○体つき:カダラツキ、タッパ、タッパイ

〇頭:ズクタン

〇後頭部:ウシロアタマ

〇頭頂部:アタマンテッペン

○額:デボチン、デボチキ、ムコーズラ

〇目:メンクリダマ

○鼻孔・鼻の穴:ハナンス

〇唇:ツバ

〇頸の後ろ・うなじ:ドンクビ、ドンノクボ(ボンノクボは共通語)

〇背中の肩甲骨周辺=テナンカケ(肩甲骨に「手」が届く意味で)

腋窩:ワキンシタ

〇上腕:イチノウデ(現在の大分でもニノウデと呼ばれることがほとんどです。時代の変遷ととも変化したと考えられます。)

〇前腕:ニノウデ(現在はほとんど使われていません)

○手のひらのくぼみ:テクボ

〇手のⅠ指(親指):トサンユビ(イビ)

〇手のⅡ指(人差指):ヒトサシユビ(イビ)

〇手のⅢ指(中指):ナカユビ(イビ)

〇手のⅣ指(薬指):ベニサシユビ(イビ)

〇手のⅤ指(小指):カンザシユビ(イビ)、サケワカシノカンターユビ(イビ)(小指で酒の燗を測っていたから)

〇腹部:オナカ、ドテッパラ、ポンポン

〇臀部:ケツ、ケッタブ、ズべ、ケツビラ、シリビラ、シリカブト

○股関節:モモネ

〇大腿:フトモモ、モモタン

〇膝(前側・膝蓋部):ツブシ、ヒダボーズ、ヒザボンサン

〇膝(後側・屈曲部):ヒカガミ、ヒッカガミ(ヒカガミは古語)、ヒザウラ

〇脛(下腿)前側:ムコンスネ、ムコーズネ、ベンケーノナキドコロ(弁慶の泣き所)

〇脛(下腿)後側:ユーロ(足がつりやすい部位。※日田ではヒルメシブクロという。)

〇踵:アド、アギ、アゾ、キビス

〇足底:アシンハラ

〇外股(足先を外に向ける歩き方):ソトガマ 

〇内股(足先を内に向ける歩き方):ウチガマ

〇体の具合:アンベー、アンバイ(塩梅)

○仰向け、仰臥位:アオノキ 

〇高体温、熱中症:アツケ

〇吐き気:ムッケ

〇胃液・キミズ(例:油ものを食べると口にキミズが上がってくる)

〇唾液:ツズ

○かさぶた:ツー

〇間食:ハダグイ(糖尿病や肥満治療などでは大切な方言です。なお、味が濃いことを佐伯ではムギーといいます)。

〇間食などを節度なく食べること:イヤシグイ、ヤシツラグイ

○でっぷりとした肥り方:ユルゴエ

○筋肉質の肥り方:カタゴエ

〇リンパ節などの腫れ・しこり:イノネ

○しびれ:シビリ

○しゃっくり:ヒクリ、ヒックリ

○便秘:ヒケツ(漢方医学用語の「秘結」を由来とする共通語だが、大分でも若い世代には使われておらず、古語(方言)になりかけている。)

○おたふくかぜ、流行性耳下腺炎:ホーバレ

○蕁麻疹:ホロセ、ホロシ

○ものもらい:メイボ

○皮膚に刺さった細いとげ:スイバリ

○スズメバチやクマバチ:ダンゴバチ(蜂刺症の病歴聴取で聞かれる)

○ムカデ:ムカゼ

 

 

◆医療に関する症状、感情、行為を示す表現◆

 

〇病気をする:ヤミツク、ネツク

〇痛む:セク(例:お腹がセク)

〇突然に関節などが鋭く痛む:キヤットスル

○頭痛がする:ニシニシスル

○筋肉痛になる:カイガサガル(佐伯市鶴見、米水津など海岸部中心)

 ※国東ではこむらがえりをカラスノリという。

○寝違える:ネタガワス

○捻挫する:タゴカス

○腹満感がある:フクマシー

〇咳をする・咳込む:タグル

〇熱感がある:ホメク(皮膚の熱感)

〇乾く:イロク(例:口の中がイロク)

○滑舌が悪くなる:ゼゼクル(例:酒を飲み過ぎるとゼゼクル)

〇鬱血して黒ずむ:クロニユル

〇化膿した傷口が開く:アバケル、アバクル

〇手足が叶わない:カナワン

○けだるい:ケダラシー

〇億劫である:ヨダキイ、ヨダキューナル(『よだきい』は、大分弁の代表格のように言われることがありますが、宮崎全県の方言でもあり、大分ではラジオなどを通じて県全域に広がったという説があります。)

〇精神的に苦痛、悲しくて辛い:セチー、ズツネー、ズツナイ

○疲労困憊する:バチクリアガル

〇きつい:キチー

〇体調が少し悪い:ナマワリー

〇弱っている:ヨワッチョル

○快適である:クァイトスル(※快(クァイ)の発音のほか、「市街」と「市外」のように共通語では同じ発音になっている言葉が大分弁では『グァイ』と『ガイ』の発音で使い分けられています)

○ひもじい、おなかがすいた:ヒダリイ

〇寂しい:サムシー、サブシー

〇驚く:タマガル、ヒエル(※「肝が冷える」から)

〇寒い:サビー、サミー、シンザミー

〇熱い:アチー

○温かい:ヌキー、ヌクイ

○冷たい:ツメテー

○痒い:ハジカイー、ハジケー

○痛い:イテー

○やわらかい:ヤエー

○硬い:カテー 

〇うるさい:セセロシー、シャーシー

○まぶしい:マバイー

〇しつこい:シチクジイ

〇可哀想:ムゲネエー

○あなどれない:アマサレン

〇出ない:デラン

〇吐く:アグル、アゲル

〇便をする:ヒル、マル、タレル、タルル

〇便を漏らす:シカブル

〇失禁する:タレカブル、シビル

〇下痢をする:クダス、クザス、サグル、サゲル

〇耐えきれない:モテン、コタエン、コラエキレン、タマラン

〇耐える:コユル、コラエル

〇怒る:ハラヲタツル、ハブタカエス、ハブタカヤス

〇叫ぶ:オラブ、ホエル

○走る:トブ 

〇苦情を言う:クジヲユー、クジヲコヌル

〇むずかる:ヤンチャヲユー、ヤクヲユー、イケヅヲユー、セセカル

〇ふざける:ドウクル

〇居眠りをする:ネムリカブル、ツルットスル

〇増える:イミル(例:水かさがイミル、ブツブツ(皮疹)がイミル)

〇かがむ・前のめりになる:クンヅク

○ほじくる:ツクジル

○勢いよく飲み込む:ヒンノム

〇吸う:スワブル(例文:赤子が乳をスワブル)

〇食べ物に執心する、むさぼり食べる:ヒロツク、ヒロヒロスル

○満腹になる:ノシトスル(※津久見、国東などの方言)

〇食べ物が腐る:スエル、スユル、イタム

〇汚い:キサネー、イビシー、ウタチー

〇買った:コータ(下記と共に土谷相談員からのエントリー)

〇借りた:カッタ(共通語の「買った」と混同しやすいので、注意が必要。契約上、重要な方言。)

○横になって休む:ヨコウ(憩うの変化形と考えられる)

〇薬草で温湿布する:タズル(古語の「たでる」から)

 

 

◆修飾語編◆

 

〇とても:シンケン、シラシンケン

〇どんどん:ドットン

○突然に:ポクト、ヒョクト、ヒョクット

○ふらふらと:フラフーケ

○ゆったりと:ユターット

 

 

◆慣用句・イディオム編◆

 

○心配で胸がいっぱいになる:ムネガフトル

○目が疲れる、眼精疲労:メノコシガオルル

〇どうにもならない状態:ドゲンコゲンナラン、ドンコンナラン

○ありえない状態:アッチアラレン

○こんなことはあまりない:コゲンコターアンマリネー

〇(リハビりなどで)どんどん歩ける:ドットン、アルキキル。

〇(車椅子などを動かそうとしても)ほとんど前に進まない:イッスンズリジャ。(※交通渋滞での様子を表す方言から)

 

 

◆補遺1 大分弁を練習する早口言葉◆

 

〇ソコニイッチキチミチクリー=そこに行ってきて見てください

 

◆補遺2 豊後方言(大分弁)を描いた戦前の絵葉書◆

右の『寫眞編』はいいのですが、左の『小言編』では豊後方言(大分弁)は小言をいうとキツく聞こえる特徴をよく掴んでますね。。。(^^;) ※2枚の写真とも所収です。
右の『寫眞編』はいいのですが、左の『小言編』では豊後方言(大分弁)は小言をいうとキツく聞こえる特徴をよく掴んでますね。。。(^^;) ※2枚の写真とも所収です。

 

(参考文献)

 

土肥健之助『大分県方言類集』大分県共立教育会 明治35(1902)年

市場直次郎編『豊後方言集』大分県立第一高等女学校 昭和8(1933)年

三ヶ尻 浩『大分県方言の研究』朋文堂 昭和12(1937)年

松田正義編『大分県史 方言編』大分県 平成3(1991)年

緒方町立歴史民俗資料館『緒方の方言』平成4(1992)年

日田方言研究会『日田の方言』日田市中央公民館 平成5(1993)年

松田正義 日高貢一郎『大分方言30年の変容』明治書院 平成8(1996)年

日高貢一郎編『大分保険医療方言集』大分保健医療方言研究会 平成13(2001)年

安東重幸『岡藩のひらくち』私家版 平成14(2002)年

阿南光彦『忘れなんえ大分弁~奥豊後方言』郁朋社 平成23(2011)年

糸永隆章『大分方言語録』大分合同新聞社 平成26(2014)年


                          (文:森本)